ボクシングのWBA・IBF世界バンタム級王者「ザ・モンスター」井上尚弥選手が日本人、前人未踏のバンタム級4団体統一を達成し、Sバンタム級の4団体統一も目指す段階となりました。
今や「日本ボクシング界歴代最強」といわれ、世界屈指の王者に登り詰めた井上尚弥選手。しかしここまで来るキャリアの過程では、負けた試合もいくつかあるなど挫折もありました。
今回は井上尚弥選手の凄さや戦績をあらためて振り返るとともに、負けた試合で得た“強さ”“教訓”も探ってみました。
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井上尚弥の戦績一覧
昨秋、バンタム級各団体の最強王者を決めるトーナメント「WBSS」で見事優勝した井上尚弥選手。
事実上「バンタム級No1」の称号を得ましたが、主要4団体のうち獲得したタイトルは二つ。残る二つも奪い、名目上も最強を証明することが2020年のテーマとなります。その第一歩が4月のカシメロ戦です。>コxナで流れました。
プロデビュー以来これまで負けた試合はゼロという強さ。28戦無敗25KOの井上選手の戦績一覧は以下の通りです。
戦 | 日付 | 対戦相手 | 勝敗 | 内容 | 時間 | 国籍 | 対戦相手試合前戦績 勝-負-分 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
28 | 2024年9月3日 | テレンス・ジョン・ドヘニー | 勝利 | TKO | 7R 0:16 | アイルランド | WBA・WBC・IBF・WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ | |
27 | 2024年5月6日 | ルイス・ネリ | 勝利 | KO | 6R 1:35 | メキシコ | 35 1 0 | WBA防衛1・WBC防衛2・IBF防衛1・WBO防衛2・WBCダイヤモンド王座獲得 |
26 | 2023年12月26日 | マーロン・タパレス | 勝利 | KO | 10R 1:02 | フィリピン | 37 4 0 | WBC防衛1・WBO防衛1 WBA・IBF・リングマガジン王座獲得 |
25 | 2023年7月25日 | スティーブン・フルトン | 勝利 | TKO | 8R 1:14 | アメリカ | 22 0 0 | WBC・WBOスーパーバンタム級タイトルマッチ |
24 | 2022年12月13日 | ポール・バトラー | 勝利 | KO | 11R 1:09 | イギリス | 4団体王座統一戦 獲得 |
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23 | 2022年6月7日 | ノニト・ドネア | 勝利 | KO | 2R | フィリピン | 42 6 0 | WBA・WBC・IBF世界バンタム級王座統一戦 WBA防衛7・WBC獲得・IBF防衛5 |
22 | 2021年12月14日 | アラン・ディパエン | 勝利 | TKO | 8R 2:34 | タイ | 12 2 0 | WBAスーパー防衛6・IBF防衛4 |
21 | 2021年6月19日 | マイケル・ダスマリナス | 勝利 | TKO | 3R 2:45 | フィリピン | 30 2 1 | WBAスーパー&IBF世界バンタム級タイトルマッチ |
20 | 2020年10月31日 | ジェイソン・マロニー | 勝利 | KO | 7R 2:59 | オーストラリア | 21 1 0 | WBO世界バンタム級王座防衛戦 試合前 |
19 | 2019年11月7日 | ノニト・ドネア | 勝利 | 判定3-0 | 12R | フィリピン | 40 5 0 | WBA・IBF世界バンタム級王座統一戦 WBCダイヤモンド王座獲得 WBA防衛3・IBF防衛1/WBSS決勝 |
18 | 2019年5月18日 | エマヌエル・ロドリゲス | 勝利 | TKO | 2R 1:19 | プエルトリコ | 19 0 0 | IBF世界バンタム級タイトルマッチ IBF・リングマガジン王座獲得 WBA防衛2/WBSS準決勝 |
17 | 2018年10月7日 | ファン・カルロス・パヤノ | 勝利 | TKO | 1R 1:10 | ドミニカ共和国 | 20 1 0 | WBA防衛1/WBSS1回戦 |
16 | 2018年5月25日 | ジェイミー・マクドネル | 勝利 | TKO | 1R 1:52 | イギリス | 29 2 1 | WBA世界バンタム級タイトルマッチ |
15 | 2017年12月30日 | ヨアン・ボワイヨ | 勝利 | TKO | 3R 1:40 | フランス | 41 4 0 | WBO防衛7 |
14 | 2017年9月9日 | アントニオ・ニエベス | 勝利 | RTD | 6R 終了 | アメリカ合衆国 | 17 1 2 | WBO防衛6 |
13 | 2017年5月21日 | リカルド・ロドリゲス | 勝利 | KO | 3R 1:08 | アメリカ合衆国 | 16 3 0 | WBO防衛5 |
12 | 2016年12月30日 | 河野公平(ワタナベ) | 勝利 | TKO | 6R 1:01 | 日本 | 32 9 1 | WBO防衛4 |
11 | 2016年9月4日 | ペッバーンボーン・ゴーキャットジム | 勝利 | TKO | 10R 3:03 | タイ | 35 7 0 | WBO防衛3 |
10 | 2016年5月8日 | デビッド・カルモナ | 勝利 | 判定3-0 | 12R | メキシコ | 20 2 5 | WBO防衛2 |
9 | 2015年12月29日 | ワーリト・パレナス | 勝利 | TKO | 2R 1:20 | フィリピン | 24 6 1 | WBO防衛1 |
8 | 2014年12月30日 | オマール・ナルバエス | 勝利 | KO | 2R 3:01 | アルゼンチン | 43 1 2 | WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ |
7 | 2014年9月5日 | サマートレック・ゴーキャットジム | 勝利 | TKO | 11R 1:08 | タイ | 17 4 0 | WBC防衛1 |
6 | 2014年4月6日 | アドリアン・エルナンデス | 勝利 | TKO | 6R 2:54 | メキシコ | 29 2 1 | WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ |
5 | 2013年12月6日 | ヘルソン・マンシオ | 勝利 | TKO | 5R 2:51 | フィリピン | 18 3 3 | OPBF東洋太平洋ライトフライ級王座決定戦 |
4 | 2013年8月25日 | 田口良一(ワタナベ) | 勝利 | 判定3-0 | 10R | 日本 | 18 1 1 | 日本ライトフライ級タイトルマッチ |
3 | 2013年4月16日 | 佐野友樹(松田) | 勝利 | TKO | 10R 1:09 | 日本 | 17 2 4 | |
2 | 2013年1月5日 | ガオプラチャン・チュワタナ | 勝利 | KO | 1R 1:50 | タイ | 9 10 0 | |
1 | 2012年10月2日 | クリソン・オマヤオ | 勝利 | KO | 4R 2:04 | フィリピン | 16 4 1 | プロデビュー戦 |
↓2020年2月5日、グアム合宿の井上ファミリー
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— 井上尚弥 Naoya Inoue (@naoyainoue_410) November 18, 2019
井上尚弥の強さの秘密は?
プロ戦績で負けた試合がないどころか、KO率89%という軽量級では驚くべき高率の井上尚弥選手。その強さの秘密はどこにあるのでしょうか。前項でご紹介した戦績をたどりながら、随所に現れるその強さを見ていきましょう。
減量苦もケガもブランクもお構いなし
現在26歳の井上尚弥選手は、史上初の高校7冠を達成するなど、アマ時代から「日本ボクシング界を背負う逸材」と評され、鳴り物入りでプロへ。
12年、ライトフライ級でのデビュー後も負けなしのまま、6戦目で初の世界挑戦。井上選手は減量の影響で足がつりながらも、強打で鳴らす王者エルナンデス選手を「力業」でねじ伏せ、6RTKO勝ち。ダウンした後、相手が試合続行を拒否する姿も、井上選手の強さを際立たせた世界デビューでした。
その後減量苦もあり、井上選手は14年には一気に2階級上げてWBOスーパーフライ級王者ナルバエス選手にいきなり挑戦。
相手は何十回も王座防衛を重ねるアルゼンチン1の名王者で、当時井上選手最大の強敵でしたが、そんな「レジェンド」さえテクニックを見せる暇すらなく、4度もダウンを喫してわずか2Rで撃沈。井上選手は当時世界最速となる8戦目で2階級制覇を達成しました。
ナルバエス戦で拳を負傷し1年ブランクが空きますが、復帰戦のパナレス戦もガードの上から殴って2Rで粉砕し、ブランクなど物ともせず。次のカルモナ戦では序盤に右拳を負傷したため、KOしきれず世界戦で初の判定勝利となります。
井上尚弥の強さとは?
メディアや解説者によれば、井上選手の強さはひとえに最大の武器・パンチ力にあります。スタイルはオーソドックスで、中間距離に構えて左右の強打をラッシュするいわば「豪腕型」。
しかしアマエリート出身らしく、相手のジャブ、打ち終わりにカウンターを合わせるセンスや動体視力とスピード、スウェーなどのボディバランスも抜群です。
「2階級上レベル」と評される強烈なパンチ力は特に超絶で、左右上下のどこでも同じパワー。相手の顔面・ボディのどこにでもまともに当たると1発アウト。
的確で鋭いジャブも平均的選手のストレート級に重く、遠い間合いからでも強いパンチが来るため、相手は思わずガードを上げて下がるしかない威圧感も、「KOの結末」を導いているといえます。
適正階級で「パワー全開」
スーパーフライ級で防衛を重ねながらも、希望する強豪とはなかなか対戦が実現せず、減量苦もあり井上選手はさらに1階級アップ。
元来「バンタムかSバンタムが適正」(大橋会長)といわれただけに、まさに「水を得た魚」に。ここから井上選手のパワーが全開し、怒濤のKO街道が始まります。
初戦でいきなりWBA王者マクドネル選手を1RTKOしあっさり3階級制覇。WBSS参戦を表明すると、一回戦の元WBAスーパー王者パヤノ選手をまたもたった70秒でKO。
準決勝IBF王者ロドリゲス選手は2RTKOでたちまち撃破。決勝のドネア戦も「即決か」と思われましたが、さすがは5階級王者の貫禄。必殺の左を受け井上選手はキャリア初の出血と眼窩底骨折を負います。
最大のピンチといえる壮絶な名勝負の末、終盤ついにダウンを奪って判定で優勝を勝ち取り、逆境でも勝ちきる打たれ強さやスタミナも証明しました。
以上見てきたような「異次元の強さ」を持つ井上選手のプロフィールを、以下の通りまとめました。
本名 | 井上尚弥 | |
---|---|---|
通称 | Monster | |
出身 | 日本・神奈川座間市 | |
国籍 | 日本 | |
誕生日・年齢 | 1993年4月10日生まれ | |
身長 | 165cm | |
リーチ | 171cm | |
アマ戦績 | 81戦 75勝 (48KO/RSC) 6敗 | ダウン経験なし |
プロ戦績 | 24戦 24勝 (21KO) 0敗 | ダウン経験なし |
デビュー | 2012年10月2日 | |
経験階級 | バンタム級 ライトフライ級 スーパーフライ級 | |
利き手 | 右 | |
タイプ | ファイター | |
KO率 | 86.4% | |
その他 | ・妻と子供3人の父親 ・Ring誌のP4P1位(2022) ・ドネア戦が2019年ベストファイトに選ばれる |
井上尚弥がアマ時代負けた試合とは
プロ戦績では負けなし、ほぼKOばかりという強さの井上尚弥選手。まさに天才の名にふさわしい気がしますが、実は彼のボクサー人生は単純な「右肩上がり」だったわけではありません。
今や信じられませんが、アマ時代には負けた試合が何と6試合も。本人も「これが教訓になった」と話す、尚弥選手の「成長のバネとなった負けた試合」をクローズアップしてみました。
林田太郎戦
10年の全日本アマチュア選手権ライトフライ級決勝。当時高校2年の井上選手は大学生の強豪・林田太郎氏と対戦します。
経験もあり試合前から林田氏は井上選手の弱点がボディにあると分析。試合では通常の4倍もの60発のボディブローを集中させ、高校では無敵の井上選手を下し優勝しました。井上選手はこう振り返っています。
林田さんは井上をして人生で唯一「完敗でした」と言わしめたボクサー。「自分のスタイルつぶされて、何もできずに撃沈しました」。偶然ではなく、実力でねじ伏せられたという。この1戦で「練習に取り組む姿勢が変わった」とも。井上はこの敗北がないままプロ入りしていたら「プロで苦戦してます」と力説。この試合が井上というモンスターを作り上げたと言っても過言ではないだろう。
:スポニチAnnexより(抜粋)
↓井上尚弥史上唯一の「完敗」林田戦
ジャキポフ戦
12年、ロンドン五輪予選を兼ねたアジア選手権ライトフライ級決勝で、19歳の井上選手は地元カザフスタンのジャキポフ選手と対戦。判定負けで五輪出場を逃しました。
敗因は実力差ではなく、心をコントロールできなかった自分のミスだったと井上選手。後の取材に「練習してきたことが2割も出せませんでした。気負いすぎていましたね。大事な試合でそういうミスをしてしまった。そこからですね。試合はとにかく平常心でやろうと強く心に決めました」と話し、プロ入り後の冷静な試合運びにつながる経験になったといいます。
井上尚弥のP4Pの行方
歴史の長い日本のボクシング史上でも、超絶な強さで屈指の名王者に登り詰めた井上尚弥選手。バンタム級で4団体統一という当面の目標に挑むとともに、その先には階級を上げてスーパーバンタム級での「4階級制覇」という次なる山も想定されています。
20代後半に入り、ボクサーとしての成熟度、完成度がいよいよピークに入る時期。KOなどの圧倒的勝利がこれからも続けば、世界の評価も一段と上がることは必至です。
階級が細かいボクシングの世界では、「もし体重が同じだったら」と仮定した「パウンド・フォー・パウンド(P4P)」という全階級想定ランキングがあります。井上選手の最新P4Pは以下の通りとなっています。
■2月6日時点の主要メディアP4P
・ザ・リング
TOP10 …… 3位、バンタム級 …… リング認定王者
・WBN
TOP50 …… 3位、バンタム級 …… 1位
・ESPN
TOP10 …… 4位、バンタム級 …… 1位
この他には既に「1位」に据えているウエブメディアもあるなど、世界的評価がうなぎ登りの井上選手。4月のカシメロ戦、そして今年もう2戦組まれるとされる試合に「完勝」すれば、年内にも日本人前代未聞の主要メディアP4P1位への昇格も、あり得るかもしれません。
※最新パウンドフォーパウンドはこちらよりご覧ください
グアム合宿中の井上尚弥選手、高低差のあるコースの走り込みや全身に負荷をかける体幹トレーニングなど意欲的に取り組んでいます。 pic.twitter.com/oVayWvYjh5
— FUJI BOXING (フジボクシング) (@fujitv_boxing) February 4, 2020
井上尚弥の海外の反応
みんなの反応
印象的。完璧なタイミング。井上はダイナマイトだ。モチベーションを保つなら、彼は長期政権を築くだろう
ネットの感想
この男には、誰も殺さないように特別な審判が必要だ。井上は遺伝子組み換え人間のように戦う。それが真実だと分かっても誰も驚かない
みんなの反応
「頭打つと死ぬから、ボディにしろ」
ネットの感想
間違いなく、世界で最高のパウンドボディショットパンチャーであり、彼のタイミングは伝説的です
みんなの反応
井上は非常に速い!電光石火の速さでの左右のパンチのコンビネーション!この男と戦うなら、モハメド・アリのように踊り回り、疲れさせるしか攻略法がないだろう
出典:YouTube
まとめ
今回の記事をまとめると以下の通りです。
ここがポイント
- 28戦無敗、KO率89%、ダウン経験ゼロの「怪物」井上尚弥
- 武器は左右上下の破壊的パンチ。3階級目バンタムで実力全開
- アマ時代の敗戦がプロでの強さを生む教訓になったと本人
あるテレビ番組で自身が語っていましたが、井上選手は当初プロ入りに乗り気でなかったとか。その理由は当時のボクシング界にはびこる「噛ませ犬・弱い相手に勝って戦績を稼ぐ」風潮。
「素晴らしいスポーツなのに、これだから世間の支持を得られないんだ」と考え、プロになる際所属ジムに「強い相手とだけ試合する」と条件を申し出たそうです。
パフォーマンスを嫌い「真の強さはリングの上だけで発揮するもの」とするそうした信条も、世界中のファンやボクサーの敬愛を集める理由なのでしょう。
「本当に価値ある勝利」をこれからもどんどん増やし、数々の偉人に並ぶようなボクシング史に名前を刻む存在へ進んでほしいものです。
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